金沢大学 国際基幹教育院様からのご依頼で、今回は『臨界質量』のシミュレーターを制作いたしました。
これまでの制作物は以下をご覧ください。
重い原子核が分裂して別の原子に変わることを、核分裂と言います。このときに出る放射線エネルギーを利用したのが、原子力発電や原子爆弾です。
代表的な放射性原子であるウラン235は、核分裂時に中性子(原子核を構成する素粒子)を放出します。この中性子が他のウラン235原
子に衝突すると、さらに核分裂が起こります。
一定の範囲内にあるウラン235原子の数を超えると、核分裂が連鎖反応を起こし、爆発的にエネルギーを放出します(臨界状態)。このときに必要なウラン235原子の質量を、臨界質量と言います。
放射性物質の塊に穴を開け、そこに同種の小さな塊を落とすと、臨界質量を超えた一瞬だけ臨界状態になります。この実験により、その物質の臨界質量を求めることができます。
が、この実験を現実に行うのは非常に危険です。一瞬とはいえ放射線被曝のリスクがあります。
かつて、アメリカのロスアラモス研究所でプルトニウムを用いた類似の実験が行われましたが、多量の放射線を浴びた研究者が死亡するという自己が起きています。著名な物理学者であるリチャード・ファインマンはこのような実験を『竜の尾を踏む実験』と呼んだそうです。
そこで、このような実験をシミュレーションで行うことができれば、安全に臨界質量を求めることができます。
今回制作したシミュレーターは、ウラン球の穴に穴と同じ体積のウランの円柱を通過させるものです。ウラン球・円柱に含まれるウラン235の割合(純度)を調整し、臨界状態になるかどうかを調べ、そこから臨界質量を計算で求めることができます。
球の純度をP1、半径をr1とし、円柱の純度をP2、半径をr2とします。
穴を考慮しない球の体積V1と、円柱の体積V2は次のようになります。
ウラン235の臨界質量をmc 、密度をρとすると、臨界条件は次のようになります。
球と円柱の体積はあらかじめわかっているものとし、P1とP2を0〜1の範囲で調整することで、おおよその臨界質量を求めることができます。
シミュレーターでは臨界条件を満たす場合、青白い光を発する演出を入れています。臨界条件を満たさない場合は、なにも起こらずに円柱が落ちるだけです。
実際に動いている動画を用意しましたのでご覧ください。
初めは臨界条件を満たしていません。二回目は臨界条件を満たしており、一瞬青白い光が発せられています。
先述の通り、現実にこの実験を行うのは危険を伴います。そのため、シミュレーターを用いて実験を行うことは、利点が大きく、意義のあるものだと思います。
最後に、再びこのような機会をいただいた金沢大学様にお礼申し上げます。ありがとうございました。